カミュは俺と同じ、戦闘集団の最高位に就いていた。強くて美しかった。鳩の血のような赤い髪をしていた。端整すぎる顔は冷淡で、皮肉っぽいことばかり言っている男だったが、本当は純粋で素朴な奴だった。俺と奴は始終じゃれあっていた。奴が死ぬその数時間前まで、いつものくだらない冗談を言い合っていたくらいだ。
少年は氷河という名前だった。ロシアと日本の混血という話だったが、金髪碧眼の利口そうなハイブリッドだ。カミュが育てた弟子の中でも最高の子供だった。素直で、筋も良く、力も強かった。子供は栄誉を勝ち得た。カミュと俺は黄金位に就いたが、氷河は青銅位に就いた。俺たちの知らないところで誰かの謀があった。教皇と女神は対立した。黄金位は教皇につき、青銅位は女神についた。師と弟子はしばらくぶりに出会ったが、闘わなくてはならなかった。それで彼らは闘った。弟子は師を殺した。
再び俺たちには関係なく、教皇は女神に屈した。再び平和が訪れた。だがカミュは戻らない。死んだのだ。それも無駄に。
俺は気が狂うほど、怒り、悲しんだ。彼が俺にとって、どれだけ大切な人間だったか、おまえらには判るまい。血を吐くように言葉を吐き出して、何人かの人間を傷つけた。
ある夜、カミュの夢を見た。夢の中で俺は死んでいて、カミュは俺の骸の傍に座っていた。俺は散々にやられたらしく、ほんとにひどい死に様だった。全身血と肉にまみれていてところどころに内臓や骨が覗いている。カミュは黄金位の由来である黄金色の防具をまとった正装姿で、ほんとに綺麗だった。そのくせ彼は煙草を吸っていた。ただ静かに俺の死体の隣で煙草を一本吸い終えると、吸殻を地面に押し付けて消した。そして黙って泣いていた。
目が覚めても、その情景に漂う深い悲しみの感情が俺の心を支配していた。酒を飲んで、俺も、夢の中のカミュと同じように泣いた。そして、許した。俺の悲しみを、弱さを、生涯にわたるカミュの不在を、俺から彼を奪った少年を、この運命を。
辛くないわけじゃない。
今は、俺は理解している。この激しい怒りや悲しみは、俺の身勝手な心だということを。俺の心にこびりついたエゴイズムは取り除くことはできないが、もしそれがなくなったとしたら、俺の心にも澄明な哀悼だけが残るだろう。もちろんそんなことは不可能だし、俺だって人間なのだから、身勝手に泣きわめいたり暴れたりすることは当たり前のことだ。ただ、カミュならそんなことはしないだろう、と思うだけだ。そして、カミュの死に際して、彼の望まないだろうことは、俺もしないと誓っただけのことだ。