軽く眠った俺は、肉と卵の焼ける匂いで目を覚ました。台所を覗くと、氷河がフライパンを火にかけて揺すっていた。
「起きましたか。あなたの分も作っておいてよかった」
「そりゃどうも」
「俺、今日帰ります」
そうか、と俺は短く答えた。パンとチーズ、温めた牛乳にコーヒー、ジャム。ベーコン・エッグの皿を俺の前に置きながら、氷河は淡々と言った。
「本は図書館に置いてもらうことに。あとは大体向こうに持って帰ります」
「それがいい」
氷河の作ったベーコン・エッグは、とても旨かった。
「たまにはうちにも遊びにきてくださいよ」
「行かない。俺寒いの嫌いだから」
あっちにもカミュがいないことを、思い知らされるのもごめんだから。
俺はここでずっと待ち続けるだろう。めぐる季節の訪れを、戻ることのない季節を、あるいは俺自身の死を。季節は流れ続け、俺は緩やかに変わっていくだろう。
居間の暖炉の上には、カミュが弟子二人と笑っている写真が一枚、増えていた。
end
2004/02/20