ポラロイドカメラ

 わたしの家には、居心地のよい中庭がある。ほんの5m四方の小さな庭だが、その手狭さがとても心地いい。石積みに白い漆喰を塗った壁沿いに寝椅子を設えていて、わたしはよくそこで眠る。夜も昼も。家の屋上には野生に近い薔薇を植えた。白い花は強い香りがあり、それもわたしの気に入っていた。あまり手入れをしないのに、薔薇は今や寝椅子のところまで垂れ下がるほど隆盛していた。
 中庭や寝椅子や薔薇の蔓をわたしは何枚か写真に撮った。ポラロイドカメラは素敵だ。せっかちなわたしを待たせない。ずっと前から、シベリアの子供たちの成長を写真に収めようと思っていた。今回聖域に帰ってきた際、ついに購入したのだ。寝室からも一枚中庭を撮る。
 家は垂直に海へ落ち込む高い崖の上に立っている。中庭と崖との間には寝室があるだけなので、寝室のテラスと中庭に出る扉を全部開けると、潮風と海鳴がよく感じられ、とても開放感がある。
 だからそんな中庭でミロに抱かれると、とても倒錯的な気持ちになる。ミロも同じような気持ちらしく、大きな声を出させるようなやり方を、わざとすることが多い。そういうときミロは口唇の端でだけとてもいやらしく微笑む。わたしは見えていないようでいて、実は見ている。それともミロはそんな笑い方を、これもまたわざと見せているのか。
 寝椅子に仰向けに横たわったわたしの足首を、片方だけ掴んだミロは、掴んだ足首をいつのまにかわたしの頭の上まで持ってきていた。さっきからミロの硬い先端がわたしの敏感なところをかすめるものだから、すっかり気もそぞろになっていたのだ。わたしはいつしか身体を折りたたむようにされて、隠すべきをすっかり青空のほうに開いてしまっていた。昼寝の時間の美しい青空を背に、ミロがゆっくりと身体を揺らしている。その表情は淡く陰になって見えない。…、また。不意に訪れる悦楽に、口唇をかむ間もなく。
 ミロもまた深くあえいできている。腰の使い方が知らず、深く、性急になってきている。彼もまた悦んでいるのだ。わたしは脚を彼の腰に絡ませて深く彼を迎え入れた。あ、と思わず声が洩れる。わたしの頭の横に手を突いて覆い被さったミロは、同じように、ん、と声を出していたが、色めいた息を吐きながら、なに、と訊いてきた。それでいて、腰はわたしの鋭敏なところを舐めるように探り始めている。おまえ、が、すごく、あ、ふと、かった、から、あ、みたいにわたしの声は分断され、あとはもはや言葉ではなかった。わたしは翻弄され、気でも違ったように快楽を求めた。内側から突かれて短い間に何度も何度も絶頂を迎えた。
 自分の大声にびっくりして我に返る。自分の姿をみっともないと思ったが、ミロは優しく消耗した表情でわたしを見つめ、満足そうにため息をついた。わたしたちはひどく息が乱れていて、全身汗やなにやらでぬれていた。シャワー浴びてくるね、とミロは身体を動かす。ミロのそこはすっかりおとなしい動物みたいな感触になってわたしの腰を出て行った。
 仰向けのまま、わたしはじっとしている。まだ熱いミロの精液が直腸の中を流れ出てくる。それをじっと感じているのは、とても下劣でいやらしい感覚だ。ミロの精液はわたしのより少し濃い感じがする。より量が多くて、もう少しドロっとしている。それが、うがたれ開かれた襞からだらしなくこぼれる。わたしはまたすっかり欲情してしまい、どうしようもなくなって浴室のミロの後を追った。
 通りがけ、わたしは寝室のテーブルの上にポラロイドカメラを認めた。わたしはファインダーに再び中庭を覗き、寝椅子を中心として、薔薇やオリーヴがうまく配置されるように構図を決めた。シャッターを押す。印画紙がぺろりと出てくる。
 白い漆喰の壁、白い石の床、濃い緑、薔薇の蔓、居心地のいい寝椅子。どこから見ても美しい中庭だ。知る者がほんとうによく目をこらして見るならば、見えるだろう。かすかな、淫猥なしみの数々が。わたしの脚を伝い流れる液体でしるしたわたしのあしあと、壁にわずかに散った液体のあと、寝椅子の敷布の乱れ。わたしは微笑み、写真をカメラの横に置いた。この写真をミロにやろう。わたしがシベリアに帰ったあと、これを見て嫉妬のように思い出すといい、このみだらな午後を。
 なぜって、わたしはシベリアの長い夜の間中、手に届かないこの中庭をずっと思っているのだから。

end
2006/11/03

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