雑然とした色と光と音の混じりあうパチンコ屋で、俺は辟易しながらカミュを探した。赤い長髪の大柄な白人がパチンコ台に向かっている姿なんて非常に目立ってしかるべきだが、俺は店を一周するほど彼を探しあぐねている。すれ違う日本人たちが俺を無遠慮に眺める。
カミュは全く周りに埋没して、台に座っていた。城戸嬢が唸る金で誂えさせた、仕立てのいいシャツにスラックス、裸足にサンダルをつっかけて、左手にはいつもの両切り煙草。赤に染め損ねたブロンドのような、とても特徴的な髪色も、黒髪を様々な段階の色にブリーチした多くの日本人に混じれば、それほど目立つものでもない。背も高く目鼻立ちも整っているのに、カミュはいつも人ごみに行くと、ほんとうに目立たない青年になる。ある種の才能だろう。
やっと俺に気付いて、カミュは振り返った。丁度玉も尽きたようで、最後に煙草を深く吸い、灰皿に押し付けて立ち上がる。
「遅かったな。二枚も擦った」
それは俺のせいじゃない。
「あれって楽しいのか?」
カミュは店を出ながらポケットを探り、煙草を取り出す。ああ楽しいよと、全然楽しくなさそうにカミュは言う。すんなりと伸びたきれいな指で、百円ライターを操って火を点ける。
「わたしは大当たりしたことないからわからないが」
地方都市の商店街は夕暮れ時だった。制服の学生たちが自転車で追い越していく。透明な青色の空に、橙色の光が差している。
「隣に座ったヤツがすごく盛り上がるから。面白いんだろう」
隣の人間が、集中したり、悪態ついたり、大当たりしたり、そういうのが楽しいんだ、とカミュは言う。より正確に言うなら、羨ましいんだろうな。
俺は肩をすくめた。
「俺にはそんな屈折した楽しみはない」
カミュは俺をちらりと見やると、口を歪めて俺の口吻を真似して繰り返した。やな男だ、と付け加える。それから例のピアニストのような指で、俺のほうに物を請う仕草をした。俺は買い物袋からビールを取り出し、彼に渡した。
カミュと俺はビールを飲みながら、二十分かけて夕暮れの道を歩いて帰った。
end
2008/03/01